大瀬良の故障(右肘靭帯損傷)はフォームの問題か、起用法が原因か。
2016/03/07
大瀬良が右肘の靭帯損傷ということで、開幕は完全にアウトとなってしまいました。
実際どの程度の深刻さなのかは全然分からないですが、一応思うところについて書いておきます。
復帰までは焦らずチーム事情も考慮せず自分のペースで行ってほしい
靭帯の部分損傷といっても軽度から重度まで色々あるので、大瀬良の肘靭帯損傷の症状がどの程度の酷さなのかは全く分かりません。
緒方監督が「検査結果は最悪のものではない。」と言っていましたが、この最悪が何を指しているのかもよく分かりません。
まぁおそらくは「トミージョン手術が必要なもの」を最悪と表現していたのだろうと思うので、この発言から分かるのは「トミージョン手術が必要なほど肘靭帯損傷は深刻ではない」ということくらいです。
なので復帰時期も全く分からない訳ですが、とりあえず復帰を焦ったりはせず、自分のペースで調整をしてキャンプもやり直して万全の状態になってから復帰して欲しいと思っています。
大瀬良の性格的にも、たとえば今年は先発投手のコマ不足が深刻っぽいのでその状況を見て復帰を焦りそうですが、個人的にそういうのは無しにして欲しいです。
万全でない状態で復帰を焦るとほぼ間違いなくフォームも崩れますし、症状が更に悪化して長期的にチームに迷惑をかけることにもつながります。
一時的に復帰が遅れてチームに迷惑をかけてでも、今後数年間にわたり大瀬良が活躍してチームに貢献してくれる方がチームとしてもファンとしても、もちろん大瀬良自身にとっても良いことです。
まずはじっくりと今できることに集中して欲しいと思っています。
大瀬良のフォームと歴代好投手のフォーム比較。フォーム修正は必要か。
youtube動画を使ったフォーム分析とかをやると、このブログがよくあるフォーム分析ブログみたいになりそうでやってこなかったですが、今回は少しだけ動画を載せてみます。
載せているのは歴代好投手のフォーム動画と大瀬良のフォーム動画です。
今回大瀬良は肘の靭帯損傷ということなので、肘の使い方を重点的に見てみます。
ちなみに一般的に肘を故障しやすいフォームというのは、「前側の足(右投げなら左足)が接地した時」に「右肘から指先までが上を向いていない」フォームです。あとは投げる時に肘を背中側に引き寄せるフォームです。
その点に着目して歴代好投手のフォームを見ていきます。(動画は1人目から順に黒田、斉藤和巳、佐々岡、多田野、西口、マエケン、ルイス、涌井。)
斉藤和巳と涌井は肘から先を上げるタイミングが遅い
まず真っ先に気になるのは斉藤和巳と涌井秀章です。
このふたりは前側の足(左足)が接地した時点で、肘から指先までが全然上に上がっていません。肘から手先までを上に上げるタイミングが他の投手と比べて遅いです。
こういうフォームだと肘の内旋~外旋~内旋という一連の動き(肘から手先部分までが下がった状態から上がった状態になりまた下がるという一連の動き)が急速過ぎて肘に負担がかかってしまいます。
涌井は近年復調して来ましたが数年前からひじ痛に悩まされていました。それもフォームに原因がなかったとは言えないと思います。
また斉藤和己は右肩を痛めて選手生命を絶たれましたが、このフォームであれば肩が大丈夫でもいずれ肘をやらかしていただろうなぁと思います。
佐々岡や黒田は肘から先を上げるタイミングが早く肘の動きがスムーズ
涌井や斉藤和己と比べ、黒田や佐々岡は左足が接地した時点で肘から先が上を向いています。
こういう投手は肘から先が急速に上げ下げされて肘に負担がかかる事もないので、比較的故障しにくいフォームとされています。また肘の使い方自体は円形に近くなっています。
あとは佐々岡のフォームはいつ見ても股関節の動かし方が天才的なほどスムーズ過ぎます。
西口文也はヒップファーストの動きが美しい
西口投手のフォームは所謂ヒップファーストという、お尻から体重を前に移動させる動きが美しいです。
軸足で立った後に上体を二塁方向に傾け自然とお尻からホーム方向に動かすことで、全身を使って投げられるし、体重を前に乗せて投げられています。
体重をしっかり乗せられているのは投げ終わった後の体勢でも一目瞭然で、着地した左足よりも全身が思い切り前に行っています。
体重を前に乗せる事や前への推進力を使って球速を稼げれば、腕の振りを無理して速くする事もないですし、腕の振りを無理に速くする必要がなければ結果的に肘や肩への負担は少なくなります。
昔のマエケンは今ほど肘に負担のかかる投げ方ではなかった
近年のマエケンはクロスステップが顕著で、肘を背中側に引き寄せる肘に負担のかかる投げ方になっていますが、この頃のマエケンは比較的肘への負担が小さいフォームでした。
肘から先を上げるタイミングも遅くなく、肘を背中側に引き寄せすぎる動きも目立ちません。
あとは左手がしっかりと前方向に伸ばせている所や、右足で立った時の体幹の安定感が素晴らしいです。
また近年のマエケンはクロスステップで腕の振りで球速を稼ぐフォームですが、この頃はまだ身体全体を使って前に体重を乗せる際の推進力を使って球速を稼いでいます。
ちなみにクロスステップで投げる投手は前への推進力を使わず腕の振りで球速を稼ぐので、当然肩肘に負担が来やすいフォームで個人的に好きじゃありません。
大瀬良のフォームは肘から先を上げるタイミングが遅い
ここで改めて大瀬良のフォームを見てみます。
スロー映像を見ても左足が接地した時点では、肘から先が大体水平くらいになっています。そしてそこから一気に肘を外旋させ(肘から先を立てて)リリースでまた内旋させて(肘を伸ばして)います。
これだけ肘から腕先を上げるタイミングが遅く、肘から先までの動きが急速になりすぎると当然肘に負担がかかってしまいます。
もう少し肘から手先までを上げるタイミングを早くした方が肘への負担は少なくなります。
さらに右肘を背中側に引き寄せすぎていて肘の使い方が鋭角的すぎます。もう少し肘の動きを楕円形に近付けて欲しいです。
そしてその為には左腕の使い方も修正が必要そうです。
マエケンの動画と見比べて貰えれば分かりやすいですが、大瀬良は左腕をあまり前方向に綺麗に伸ばしません。
右肘と同じように、左側の肘も内旋させた状態からグラブを引いています。
もし右肘から先を上に上げるタイミングを早くするなら、左腕ももう少し前方向にまっすぐ伸ばした方がバランス的に良くなります。
ちなみに大瀬良が悪くなる時は上体が前かがみになって腕が横振りになる時です。
これも左肘を内旋させず左腕を前方向にまっすぐ伸ばすようにすれば、上体が前かがみになることもなくなり更に良くなりそうな感じがします。
起用法に問題はなかったか。
大瀬良の右肘靭帯損傷は大瀬良自身のフォームに問題もありますが、起用法に問題がなかったかと言えば全くないとは言えません。
去年の大瀬良はまずは先発、そしてシーズン途中から調整期間なしでリリーフに転向しています。
ちなみに大瀬良がリリーフに転向した時点でカープの残り試合は85試合。そのうち大瀬良はリリーフとして42試合に登板しています。
このペースで年間通してリリーフとして投げていたら70試合を超えています。さらに大瀬良の場合はイニング跨ぎもあったので、その負担は普通の70試合登板以上に過酷です。
さらに最後に先発として登板した日からリリーフ転向までわずか7日間しかありませんでした。
普通は起用法を変えるなら二軍で相応の調整期間がありそうなものですが、大瀬良の場合はその調整期間もなかった訳です。
大瀬良は肩を作るまで他のリリーフ投手と比べ2倍くらいブルペンで投げる必要があったというのも、この調整期間なしリリーフ転向が原因のひとつになっていたと思います。
そして夏場にはすでに指を傷めていながらそれを言い出せずにシーズン終了まで投げ抜きました。
当然ですがプロ2年目なのでまずは一軍に居続けたいという気持ちもあったと思いますし、チーム事情を大瀬良自身が過剰に意識してしまった面もあったのかなと思います。
結局故障を抱えたままシーズン終盤は明らかにフォームが崩れた状態でも投げ続け、この時期にこのような事態になってしまいました。
ケガをしたからこそ見えてくるものもある。
大瀬良の右肘靭帯損傷は大瀬良自身のフォームにも原因はありますし、起用法にも原因がないとは言えません。
とは言え大瀬良の肘が壊れた事はすでに現実に起こった事で、今さら何を言っても取り返しはつかないです。
大瀬良にとっては焦る時期だとは思いますが、ケガをしたからこそ見えてくる世界というのも確実に存在します。
フォームや身体の使い方等には今まで以上に意識が向くと思いますし、じっくりと理想のフォームを作り上げる為の時間ができたとも言えます。
さらに肘の故障なので肘が治るまで下半身の強化はできます。この点は鈴木誠也のハムストリングの怪我とは違って不幸中の幸いです。
大瀬良の復帰までどれくらい時間がかかるか分からないですが、早期復帰を焦ってまた故障したりフォームが未完成な状態で復帰して不調に陥るのは長期的にチームにとってマイナスです。
焦らずじっくりとマイペースに時間を有意義に使い、多少復帰時期が遅れてもこれから数年間にわたり長期的に活躍できるようにした方がチームとしても大瀬良にとってもプラスになります。
目先の焦りやチーム事情にとらわれず、自身の選手生命をいかに伸ばして長期的に活躍できるかを考えて万全の状態で復帰して欲しいと思います。